指先寓話 イナゴ 2

指先寓話

5畳月4万円の和室ワンルーム、これが俺の秘密基地だ。
俺は投資家だ。扱うものは株や商品先物、為替まで多岐に渡る。
いや、投資家なんて呼ぶのは間違いかもしれない。
投資家であれば企業の成長を予想して株を買ったり、企業価値より割安な株を買ったりするものだが、俺がやっている手法は俗に言う。。。
イナゴだ。
世間で注目を集めて一気に急上昇した株や商品にのっかり、注目が消え去る前に逃げ切る。
投資家であれば必要なのは会社の情報だ。経営方針であり、未来予測であり、経営者への信頼だ。
所詮、イナゴの俺に必要なのはTwitterただ一つだ。
いかにみんなが話題にしている銘柄や商品を見つけるか、ただそれだけだ。

夜間の工場の仕事を終えてひと眠りした後が俺の戦場だ。
株式市場が開くのと同時にTwitterを眺める。
今日は有名株トレーダーのSICさんが「東証一部復帰の電気メーカー日経平均採用、日銀砲で打ち上げ用意」とツイートしている。
ほぼ、なぞなぞみたいなツイートだが、頭の良い俺らからすればすぐにどこの会社かわかる。
北芝電機だな…。
急いで北芝電気に買い注文をする。
すぐに『俺と同じ』イナゴ達が集まってきて北芝電気の株がつりあがっていく。
後少し、、もう少し、、、よし、利確だ!

今日も8千円儲かった。
今日はエビスビールでも買って祝杯を上げるか。
知っているのだ、有名株トレーダーと違って、そもそも種銭が少なすぎることも、1日の利益もわずかなことも。

今日は会社で永年継続報奨金が支給された。
気づけば夜間の工員として20年が経とうとしている。
正直に言えばイナゴトレードだって勝ったり負けたりだ。有名トレーダーがツイートしている頃には既に最高値だったという目にも何度もあっている。
永年勤続補償金を投資用口座に放り込んでいつものようにTwitterを巡回だ。

元トルコ人トレーダーのマエンさんが「アフリカでイナゴが大量発生、小麦価格に注意を」とツイートしている。
俺は急いで小麦ETFに投資した。

小麦の価格はどんどんどんどん上がっていく。
俺は塩漬けにしていた株を売り、ありとあらゆるお金を搔き集め小麦ETFに一発人生をかけることにした。
小麦ETFはどんどん値段が上がり含み益がどんどん増えていく。

イナゴが農作物を荒らしていくというニュースはだんだん真剣味を帯びてきた。アフリカのイナゴはインドへ行き、メキシコではイナゴの幼体が大量に見つかっているらしい。
しかし、それは俺にとっては吉報だ。
小麦ETF利益が増えていくっていうことだ。

小麦価格の上昇は他の農作物の価格まで影響を与えた。
こないだは100円で売っていたコロッケは110円になり、少し小さくなり、130円になり、また少し小さくなり、そして150円になった。

食料価格の上昇が食べ物以外の消費を冷え込ませどんどん景気が悪くなっていった。
娯楽品が売れなくなり、家が売れなくなり、車が売れなくなった。

俺は20年勤めてきた工場をあっけなく首になってしまった。
でも、俺はこれで決心がついた。
「これからは専業トレーダーになる」
イナゴの大量発生が世界中の農作物を荒らしているというニュースは続いている。
小麦ETFの含み益はどんどん増えていく。
俺は、コンビニで買った塩おにぎりを頬張ると、紙カップのなめこの味噌汁を啜った。

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