指先寓話 楊貴妃の台所

指先寓話

「またダメだったか」
シュウと一緒に頭を抱える。
ここは楊貴妃の台所、世界で最も美しい楊貴妃様の食卓と調薬を兼ねている場所だ。
楊貴妃様はいつからか永遠の美しさを求めてすっかり不老不死に熱心になってしまった。
今まで出した食事はイモリの黒焼き、エゴマの油、北方の獣の肉から、南方の果物まで数がしれない。
今回こそはと豚の臍帯の煮汁を出したのに50日で飽きてしまった。
そう、いつもそうなのだ最初こそ「だんだん、肌が美しくなってきた気がする」と喜ばれるのだが、決まって50日で白髪が増えただとか、皺が増えただとかなんだかんだと言って違う不老長寿の食事を出すよう指示をされるのだ。
「もう、唐の国の中で探すのは限界かもしらんな」
そう同じ調薬兼食事係のシュウと2人で話し合った。

東の国

遥か東の果ての国に月の光から生まれし女子あり、絶世の美女にて食べし物は傾国の妙薬なり
そんな情報を商人から聞きつけた。
「よし、東の果ての国へ今すぐ使いを出そう」
皇帝の親書とともに東の果ての国へ使いを出した。
探すのは月の光より生まれし美女の妙薬だ。
見つかるのにもしかしたら数年がかかるかもしれない。
「しばし、待っていただければ。しばし、待っていただければ」
それを楊貴妃様に繰り返して幾月か
思いのほか早く月の光より生まれし美女の妙薬は届いた。
重厚な木の箱を開けると思わずシュウと顔を見合わせた。
「これは、、、」
「どう見ても、ただの筍だな」
しかし、同じタケノコでも唐の国の物とは違うのかもしれない。
灰を混ぜたお湯であく抜きをしながら茹でて楊貴妃様に献上した。
当然、返ってきた言葉は「ただのタケノコではないか」だった。
東の果ての月の光から生まれし美女の妙薬だと必死に説明したが、50日を待たずに「こんなもの不老不死に効かぬわ」という言葉が出てきた。

西の国

遥か西の国に光り輝く妙薬あり、全ての生き物の生命の根源にて、その妙薬を飲みしものは命を長らえること確実である
古い学問書から西の国の妙薬の記述を学者が見つけ出した。
「よし、次は西の国だ、西の国へ使いを出そう」
西の国へ親書と使いを出した。
しかし、西の国へは砂漠を超えていかねばならぬ。
多くの使いの虚報が届き。
多くの年月が経った。
「西の国の使いが、使いが帰ってきたぞ」
そういう、大声に私とシュウは飛び出して行った。
大きなツボを抱えた使いが西の国の妙薬ですと差し出した。
シュウと急いでツボを開けるとどう見てもただの水にしか見えない液体が見えた。
「これは、水ではないか」
使いの者はこう言った「砂漠の国では水は貴重なものです。命を繋ぐものとして珍重されています。特に濁り無き綺麗な水は妙薬として人々は大事にしています」
シュウと2人で頭を抱えた。
まさか、ただの水を妙薬として献上するのは。
しかし、こんなに期待させて何もないというわけにもいかない。
楊貴妃様には西の国の妙薬として『水』を献上した。
きっかりと50日で飽きられた。

戦乱

それからもシュウと2人で不老不死の薬を探し続ける日々は続いた。
そんなある日、北方の辺境地域を治めている安禄山が反乱を起こし、洛陽が陥落したという知らせが届いた。


戦乱の始まりとなった。


楊貴妃様と、我々帯同の者は唐の首都、長安を抜け出し、蜀地方へ行くこととなった。
楊貴妃様は前にも増して「不老不死の薬を、不老不死の薬を」と叫ばれるようになった。
戦乱は激しさを増していく一方になった。
私とシュウは禁断の薬を試すことにした。
ある者はこれを飲めば不老不死に、ある者はこれを飲めば命を絶つという秘薬だ。
蜀地方へ向かいながらも、なんとかその秘薬を調達し、楊貴妃様へ献上した。


しかし、運命はここで潰えた。
蜀地方へ向かう途中、馬嵬に着いた我々に楊貴妃様自害の命令が下った
理由は謀反が為だという。
禁断の妙薬『常温で流れる金属』を口いっぱいに含んだ後、楊貴妃様は命を絶ったという。
それが自害なのか、誰かに殺されたのか、我々には知る由もなかった。

水銀を染み込ませた死体は永遠に腐らずミイラになるという。
死してようやく永遠の不老を得た楊貴妃のミイラは夫によって何処かに埋葬されたらしい。
夫は画家に楊貴妃の絵を描かせた。その絵は数百年のときを超えて楊貴妃の永遠の美しさを伝えたという。

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