指先寓話 おっさんの小人

指先寓話

どうも、こんにちは、おっさんの小人です。
おっさんの小人と言っても私自身がおっさんのわけではありません。
私は妙齢男性を『おっさん』にするのを生業とする小人なんです。

人間にはだいたい、1人に1人、小人が見守り妖精として担当するわけなんですが、男性は妙齢になると私のようなおっさんの小人の担当に役割交代になります。
私のようなおっさんの小人の仕事といったら、枕を臭くにおいをつけたり、鼻毛に白髪を紛れ込ませたり、耳元でくだらないダジャレを言って思わず人間が親父ギャグを言いたくなりたくさせるのが仕事だったりします。

今日、私は新たな担当として松崎さんの見守り妖精となることになりました。
この松崎さん、仕事がアイドルらしいんですが、年齢は30代半ばです。
もう、十分におっさんになるべき年齢です。
男性人間はおっさんになるという宿命から逃れられないのです。
例え人間がアイドルだろうと、おかまだろうと、おっさんの小人として粛々と仕事をするまでです。

1.枕が臭い

俺は松崎翔、5人組男性アイドルのリーダーだ。
もう、キャリアは10年になる。
メンバーは23歳から、35歳まで。そして、この私が最高齢の35歳だ。
アイドルなわけだから当然、見た目、身だしなみには最大限配慮している。
しかし、時間は残酷だ。最近、枕が臭くなってきているのだ。
ついに、俺もおっさんへの道への第一歩を歩みだしているのかもしれない。

「翔さん、食欲ないんっスか」
メンバーのカズが、焼き肉弁当を頬張りながら俺に尋ねる。
「おれ、さいきん、、ヴィーヴァンに興味があるんだよね」
当然、枕が臭いので動物性脂肪の多いものを控えているなんて言えるわけもない。
「へぇーやばいっすね」
元から大した興味もないように、カズが答える。

だいたい、13歳から25歳のメンバーでアイドルデビューさせるって無理がある企画だったんだよ。
25歳なんて、四捨五入したらもう三十代じゃねぇか、会話なんかほとんど合わないぞ。

電動シェーバーで今日3回目の髭剃りをしながら、十周年のイベントを終えたらメンバーから離脱とかも考えようかなと考えを巡らす。
35歳、四捨五入したら40代…。

2.小人のお仕事

松崎は必死におっさん化への抵抗を見せるが、本来、人間が年を取るとは素晴らしいことである。
人間は40代なら40代の、60代なら60代の生き方をするのが本来である。
それをわからせるのが、おっさんの小人の仕事である。

今日も松崎が必死にスプレーしたリセッシュに負けないくらい強烈な加齢臭を枕につけた後に、松崎の耳元で親父ギャグを呟いていたが、この男は歯を食いしばって親父ギャグを言わないでいるものとして振舞っている。

そこまでして、若さに縛りつくなんて哀れな男である。
いっそ、髪の毛を全部抜いて禿にしてしまおうかとも思ったが、それは最終手段として取っておこう。

美容液を顔に塗り、化粧をして、そこまでして、若く見せようと必死になっている。
あぁ、普通なら結婚を考えたり、子供が居てもおかしくないような年齢なのに。
アイドルとは不憫な商売だなと、小人は思うのであった。

まぁ、なんであれ、我々小人は粛々と仕事をするまでである。
今日は松崎の鼻毛に白髪を植えようと決めた。

3.十周年

アイドルグループ”ファイブメン”は十周年ライブの日付が近づいてきた。
メンバーでのいつものダンス&ボーカルステージ以外にそれぞれのメンバーで個別でショーステージをすることになった。

松崎は頭に浮かぶマジックショーだの、一人漫談などおっさん臭いものを振り払い、何をするのか必死に考えていた。
メンバーはブレイクダンスだの、ボイパだの言っているが松崎には何もそんな芸を持ち合わせていなかった。

ふと、十代の頃を思い起こした。
アイドル事務所に入りながら、デビューを目指していた頃。

いや、もっと前の頃、置き忘れてきた何かを。

あぁ、そうだ。俺は。

4.小人とアイドル

ファイブメンの十周年ステージは華やかに始まった。
多くのファンが応援するメンバーの団扇を持って、駆けつけてくれている。

メンバー全員のパフォーマンスが始まった。
女性の歓声が上がる。
松崎はまだまだダンスにも歌にも息が切れない自分にほっとしていた。

そして、松崎のソロステージが始まった。

スポットライトの真ん中で松崎はギターを取り出した。
ギターを弾きながら歌をうたう「あの頃をワンモアタイム…。」

松崎はこの日のために十代頃からすっかりやめていたギターを必死に練習したのであった。
元々はアイドルじゃなく、普通のミュージシャンになりたかった。

コードを必死に思い出し、オリジナルの歌と歌詞を考えて。
何故だか、不思議とメロディーも歌もすらすらと耳元で誰かが歌っているかのようにすらすらと出てきた。

ステージで一人ギターで歌を歌う松崎に初めファイブメンのファンは驚いたようだがすっかり歌に魅せられていた。
等身大の普通の悩める30代の歌だった。
ファイブメンの10年の月日でファンも10年の月日を積み重ねていたのだ。
そう、みんなみんな年をとっていた。

松崎の歌が終わるとファンから拍手があがった。
耳元で誰かが小声で囁いているようだ「おっさんって最高だろ」と。

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